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宇宙でも壊れない半導体?―2次元材料が切り拓く新時代の宇宙エレクトロニクス

導入

人工衛星や探査機など、宇宙で動く機器には極めて過酷な環境が待っています。
強烈な放射線、極端な温度変化、無重力――こうした条件に耐える電子デバイスの開発は、宇宙技術の大きな課題の一つです。

そんな中、中国・清華大学を中心とする研究チームが行った最新研究では、2次元半導体材料(2D材料)が宇宙環境下でも優れた安定性を示すことが明らかになりました。
本成果は2025年2月、権威ある科学誌 National Science Review に掲載されました。


研究概要


背景:なぜ「2D半導体」が注目されるのか

従来のシリコン(Si)トランジスタは、微細化の限界に近づいています。短チャネル効果(電流漏れ)やキャリア散乱(電子の移動の妨げ)によって、さらなる高性能化が難しくなっているのです。

一方、**2D遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDCs)**と呼ばれる材料群(例:WSe₂、MoSe₂、WS₂)は、

といった特徴を持ち、次世代半導体として注目されています。


実験の内容:実際に宇宙へ!

研究チームは、CVD法(化学気相成長)で合成した単層WSe₂およびNb(ニオブ)ドープWSe₂の薄膜を用い、これらを実際に衛星に搭載して宇宙空間に送り出しました

搭載先は2024年9月に打ち上げられた中国の再使用型実験衛星「実践19号(Shijian-19)」。
14日間の軌道飛行ののち、衛星は地球に帰還。宇宙にさらされたサンプルを分析しました。

研究チームは、宇宙前後での**光学特性(ラマン・PLスペクトル)および電気特性(FETの伝達特性)**を比較し、放射線・温度変動・真空といった影響を定量的に評価しました。


主な結果

これらの結果から、2D半導体材料は宇宙の厳しい環境でも構造・機能を維持できることが初めて実証されました。


研究の意義

本研究は、宇宙空間での材料信頼性試験を「実際の軌道環境」で行った世界初の例として注目されています。
従来の研究は、放射線照射や低温真空などを地上で模擬的に行うものでした。

今回の成果により、2D材料は次のような応用に道を開きます:

さらに、研究チームは「地球上の極限環境(高温・高放射線)技術への応用」も視野に入れています。
たとえば、原子炉や高高度ドローンなどでもこの技術が役立つ可能性があります。


筆者コメント

この研究は「2D材料が宇宙に行った」だけでなく、帰ってきた後も壊れなかったという点で画期的です。
材料科学者としても、この実験の実行力と技術精度には驚かされます。

今後は、MoS₂やグラフェンなど他の2D材料でも同様の宇宙試験が進むでしょう。
また、人工衛星内部だけでなく、外部構造材やセンサー表面に直接利用する応用も考えられます。

「宇宙で壊れない電子材料」が現実になれば、
私たちの科学探査は、さらに遠く、長く、そして自由になるはずです。


参考情報


ハッシュタグ

#2D材料 #宇宙工学 #半導体 #清華大学 #材料科学 #宇宙技術 #ナノテクノロジー

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