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GaN HEMT における C/Fe 複合ドープバッファ

概要(Abstract)

この論文では、Si 基板上に成長した AlGaN/GaN HEMT において、単層 C ドープバッファC/Fe 複合ドープバッファの電気的・ノイズ・ダイナミック特性を比較評価した。C/Fe 複合バッファは Fe 拡散抑制を目的として C 層を上部に配置した構造を採用している。DC 特性は類似するものの、複合バッファはより大きな vertical breakdown voltage (1055 V) と **低シート抵抗(269 Ω/□)**を示し、一方で単層 C バッファは 低ノイズ・低トラップ密度・低動的 Ron を示した。SIMS、ノイズ解析、温度依存測定の結果から、Fe 由来トラップによるチャネル散乱および動的特性劣化が主因であることが示された。複合バッファはさらなる最適化次第で、高耐圧と絶縁性制御の両立に有望と結論づけられる。


背景

GaN HEMT の高耐圧化には、高抵抗(semi-insulating)GaN バッファの最適設計が不可欠である。しかし既存手法には次の課題がある。

● Fe ドープバッファの課題

● C ドープバッファの課題

● 本研究の狙い


手法

1. エピ構造と材料パラメータ

MOCVD により以下の積層構造を Si 基板上に形成:

Hall 測定

2. デバイスパラメータ

3. 解析手法


主要結果

■ 1. DC 特性

● IDS–VDS(Figure 2a)

● サブスレッショルド(Figure 2c)

→ C-doped の方がオフリーク・トラップの少なさを反映

● ゲートリーク(Figure 2d)


■ 2. ダイナミック特性(current collapse、drain lag)

● パルス測定(Figure 4a–b)

→ C/Fe は深い/浅いトラップ双方の影響で動特性が劣る


■ 3. 低周波ノイズ(Figure 5a–b)

SID/IDS² vs VGS の解析


■ 4. 耐圧特性(Figure 6)

● 横方向耐圧

→ C の方が高絶縁性でリークが少なく高耐圧。

● 縦方向耐圧

→ Fe のキャリア補償効果により vertical path の絶縁性が改善。

● シート抵抗

SIMS(Figure 6d)より Fe はチャネル側に拡散していないため、
下記が示唆される:


■ 5. 結晶品質と転位密度(XRC)

C/Fe の結晶品質は大きく劣化

転位密度(経験式より)

→ Fe ドープが主因。動特性・ノイズ劣化と整合的


■ 6. 温度依存特性(300–400 K)

● IDS ロールオフ(Figure 7)

● Ron 増加

→ C の方が熱的劣化が小さく、熱散逸にも優れる


考察

● Fe の深い準位は vertical breakdown に寄与

● C 層による Fe 拡散抑制は成功

SIMS により Fe はチャネルから隔離されているため、
チャネル品質悪化は抑えられている。

● しかし C/Fe は結晶品質劣化 → トラップ密度増大


技術的意義と展望

■ 本研究の位置付け

従来研究では、

本研究はこれらを複合化し、
“C による Fe 拡散抑制”
“Fe によるキャリア補償と高耐圧化”
の両立を目指した点に新規性がある。

■ 技術的インパクト

■ 今後の最適化方向

→ 複合バッファは “trade-off optimization platform” として将来性が高い


まとめ

本研究は、AlGaN/GaN HEMT における C/Fe 複合バッファの利点と課題を定量的に示した。

● 利点

● 課題

総合評価として、
C/Fe 複合構造は “高耐圧化” に有効だが、動特性とトラップ密度の最適化が不可欠
であり、今後のエピプロセス改良によって高性能 GaN-on-Si パワーデバイスのプラットフォームとなる可能性が高い。

参考文献

Chang PH, Huang CR, Liu CH, Lee KW, Chiu HC. The Effect of Dual-Layer Carbon/Iron-Doped Buffers in an AlGaN/GaN High-Electron-Mobility Transistor. Micromachines (Basel). 2025 Sep 10;16(9):1034. doi: 10.3390/mi16091034. PMID: 41011924; PMCID: PMC12471957.

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12471957/

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