ドラマや映画、アニメの世界では拳銃から発射された弾が途中で曲がるような描写が描かれることがあります。今回は弾道曲げが実際にできるのか、物理を考えてみようと思います。
弾道曲げが話題になった映画
拳銃の弾道曲げが話題になった映画は、ウォンテッドという映画です。こちらの映画は、2008年に公開されたアンジェリーナ=ジョリーが主演のアクション映画で、興行収入が1億ドルを突破した大ヒット映画です。この映画の中で主人公が手首のスナップを利かせて銃を横に振り抜きながら撃つことによって、発射した弾丸の軌道を曲げて遮蔽物の奥にいる敵へ命中させるというテクニックを披露しています。こんなことは可能なのでしょうか。
こちらの動画は映画の宣伝動画で、この中にも弾道をまげて発射するシーンが描かれています。
手首をひねるだけでは弾道を曲げることはできない
結論から言ってしまうと、手首をひねるだけでは弾道を曲げることはできません。これは「怪しい伝説」というディスカバリーチャンネルで放送された番組内で検証されています。超人的なスピードで腕を振ることのできるロボットアームを使って、映画のように手首をひねって弾道を曲げることができるかどうか実験しています。その結果、大リーグの野球選手並みに早く腕を振っても弾道は変わりませんでした。
なぜ弾道は変わらなかったのか
なぜ拳銃から放たれた弾の軌道は手首をひねるだけでは変化しなかったのでしょうか。それは、手首をひねることで弾に力を加えられるのは、拳銃の銃身から弾が飛び出すまでであって、飛んでる途中の軌道を変えるには飛んでる弾に力を加える必要があります。
手首をひねるとどうなるか、上から拳銃を見た想像図が下の図です。
図の右はそのまま拳銃から弾を撃った場合です。この場合はまっすぐ弾は飛んでいきます。手首をひねった場合は斜めに向かって弾を撃つことになります。この時、弾には手首をひねることで力が加わりそうですが、手首をひねる程度で加えることのできる力は拳銃が発射されるときの衝撃に比べればごくわずかで、無視できる程度です。仮に力が加わって軌道が変わったとしても、それは最初の一瞬だけでその後新たに力が加えられない限り、最初の軌道のまま弾は飛んでいきます。
これをもう少しわかりやすくしてみます。次の図のように紐のついた球を回している状況を考えます。回している最中に紐を切るとどのように球は飛んでいくでしょうか。正解は、紐が切られた瞬間の点から、円軌道の接線方向にまっすぐ球が飛んでいきます。砲丸投げをイメージしてもらえればよいと思います。
なぜ、弾道曲げの描写が描かれたのか
物理法則を考えれば、手首をひねるだけでは拳銃の弾が途中で曲がることはないとすぐにわかります。当然、ハリウッド映画の製作者もわかっていたでしょう。ですが、このシーンは採用されており、映画自体もヒットしています。なぜ、弾道曲げのシーンが採用されたのでしょうか。直感で考えると、手首をひねって回転をかければ、弾が曲がるように思う人が多いと映画製作者が考えたのでしょう。ちょっと理屈を考えれば、このシーンに無理があることはわかりますが、映画を観ながら物理を考える人はほとんどいないでしょう。そうであれば、人間の直感に訴えるシーンを作ったほうが、たとえそれが物理法則に反していても、ヒットするシーンになることでしょう。
まとめ
映画ウォンテッドに出てくる弾道曲げは直感的にはできそうな気がしますが、物理的には再現できないシーンになります。物理法則に則ったシーンよりも、人間の直感に訴えるシーンを入れたほうが、映画としては面白くなるのでしょう。人間の直感が必ずしも正しいわけじゃないことの一例でしょう。