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染料の非破壊分析 エジプシャンブルーとインディゴ

先日、「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」に行ってきました[1]。
ミイラをCTスキャンで解析し、埋葬された人の性別や年齢を推測したり、ミイラの作成技術を解析するなど、非常に興味深いものでした。
副葬品や棺の装飾に関する展示もあったのですが、その中で装飾に使われた青がエジプシャンブルーではなく、インディゴであり、ここからエジプトとその他の国の交流が読み取れるとありました。

青色の分析には分光分析が使われていたのですが、科学技術を使って歴史を紐解いているのが面白く、決して大きな展示ではなかったのですが、個人的に惹かれました。
そこで、インディゴとエジプシャンブルーがどうして分光分析で区別できるのか、まとめてみました。

エジプシャンブルーの成分

エジプシャンブルーは下図のような青色で、人類最古の合成顔料の一つだそうです[2]。

エジプシャンブルーの主成分は珪酸銅カルシウム(CaCuSi4O10又はCaO·CuO·4SiO2)で、銅(金属または鉱物)、珪砂、石灰、融剤の混合物を高温で焼成することで得られます[3]。
CaCuSi4O10の構造は下図になります[4]。

灰色がSiO4、青色がCuO4を表し、緑色はCaになります。

Cuは青色を発色することで知られていますが、CaCuSi4O10と同じようにCuO46-をもつCaCuO2は青色を発色しません[5]。SiO4-はそれ自体は発色に寄与しませんが、全体の結晶構造を変えることで青色が発色するようになります。また、Ca2+を同じ価数のイオンに変えても色相はほとんど変化しませんが、価数の違うイオンに変えて構造が変わると色相も変化します。

インディゴの成分

エジプシャンブルーが無機物であるのに対して、インディゴは植物から採取される有機物です[6]。

インディゴの化学式は、C16H10N2O2で下図のような構造です。

灰色が炭素、赤色が酸素、青色が窒素、白色が水素を表します。

染料の非破壊分析

文化財等に使われている染料の成分を分析することは、その作品が作られた歴史を知ることや作品保護の観点から重要です。
作品を破壊することなく、分析するために、紫外光や可視光の反射・吸収スペクトルや蛍光から材料を特定する方法がとられています。

エジプシャンブルーの場合、可視光を照射すると630nmの波長の光を特に吸収し、赤外領域の蛍光を発する[3]ので、これを検出することで、エジプシャンブルーが使われていることを特定できます。ほかにもハンブルー(漢ブルー。BaCuSi4O10)やハンパープル(漢パープル。BaCuSi2O6 ハンブルーより珪酸が少ない)、カドミウムを含む顔料の同定ができます[6]。

一方、インディゴの場合は紫外・可視光では蛍光がみられないので、吸収スペクトルを分析します。

まとめ

染料の分析に紫外・可視光を使った分析が使われていることを知り、エジプシャンブルーとインディゴの違いを調べてみました。
鉱物から作られるエジプシャンブルーと植物から抽出されるインディゴでは無機物と有機物という違いはありますが、青色を発色するという点では分光スペクトルは同じだろうと思っていました。
ですが、エジプシャンブルーは赤外領域に蛍光を発するという特徴があり、それによって見分けることができるということで面白いなと思いました。

参考文献

[1] 「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」公式ホームページ https://daiei-miira.exhibit.jp/

[2] Wikipedia “エジプシャンブルー” https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B8%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC

[3] 阿部ら “XRFスペクトルの半定量解析による壁画顔料の組成的特性化法の提案とエジプト・コンスウエムヘブ墓壁画の非破壊オンサイト分析への応用”

[4] https://www.chemtube3d.com/ss-cacusi4o10-2/

[5] Pablo García-Fernandez et al., “Origin of the Exotic Blue Color of Copper-Containing Historical
Pigments”

[6]高嶋ら”美術作品に対する自然科学的調査―非接触調査法を中心に”

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