2019年8月7日、東北大などの研究グループから、茨城県の日立鉱山で採取された鉱石の中から新鉱物を見つけたと発表がありました。
発見したグループは「日立鉱」(英語名:Hitachiite, ヒタチアイト)と命名したようです。
東北大などの研究グループが7日、茨城県の日立鉱山で採取された鉱石の中から新鉱物を - Yahoo!ニュース(河北新報) 新鉱物「日立鉱」発見 材料開発の応用に期待 東北大などのグループ(河北新報) ... - Yahoo!ニュース |
発見した東北大のグループによると、日立鉱は極微小で、重元素を含むため、結晶構造の決定が困難でしたが、放射光を用いることで構造解析に成功したとのことです。
【発表のポイント】 日本最古の茨城県日立鉱山不動滝鉱床から、新鉱物が発見された。 茨城県から新鉱物が発見されたのは初めて。 新鉱物「日立鉱」の化学組成・結晶構造から、鉱物の分類について新しいシリーズ... 日本最古の鉱床から新鉱物を発見!! 〜放射光X線回折実験により、新しいタイプの... - 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY- |
日立鉱に関する研究成果は、学術雑誌「Mineralogical Magazine」に掲載されています[1]。
日立鉱に関する論文に書かれている内容について紹介します。
日立鉱の構造
日立鉱の構造は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)による分析、シンクロトロン放射光による分析、粉末X線回折法による分析によって決定されました。
顕微鏡写真
まず、論文で分析している日立鉱の外観は次のようになります。
日立鉱を含む鉱石の光学顕微鏡写真[1]。日立鉱は赤い矢印で示した領域。
aは拡大図、bは黄鉄鉱の中に日立鉱が何か所かに含まれることを示している。
日立鉱は黄鉄鉱の中から見つかっており、写真のように数十マイクロメートルサイズと非常に小さいです。このように非常にサイズが小さいので、分析には電子線やX線が用いられます。
質量分析
続いて、EPMAによって日立鉱の質量分析を行ったところ、含まれる元素とその質量%(wt.%)は、Pb 52.01, Bi 23.06, Fe 0.69, Sb 0.17, Te 13.74, S 9.71, Se 0.54 wt.%でした。そこから、理想的な化学式を計算すると、Pb5Bi2Te2S6となります。Pb, Bi, Te, Sからなる日立鉱と関連する鉱物と今回の日立鉱の化学式を比較したのが、次の図になります。
日立鉱は、硫化鉱物、硫テルル蒼鉛鉱グループに分類されています。現在、このグループの分類に関しては、国際鉱物学連合において再検討が進められているようです。PbS, PbTeとBi2Te2S,Bi2Te3の間にある鉱物の結晶構造について詳細なことはわかっておらず、日立鉱の解析に東北大のチームが取り組んだようです。
結晶構造
シンクロトロン放射光を利用して、X線回折パターンを調べ、結晶構造を決定しています。その結果、日立鉱の空間群は、P-3m1であり、格子定数は
結晶構造の図は次のようになります。
今後の展望
日立鉱の組成式がわかったこと、PbS, PbTeとBi2Te2S,Bi2Te3の間の結晶が直線的な組成で表されることが今回の解析からわかったことから、硫テルル蒼鉛鉱グループにはまだ未発見の組成が残っており、今後発見される可能性があることが示されました。
また、硫テルル蒼鉛鉱はトポロジカル絶縁体・超伝導体材料として注目されており、それと類似の構造をもつ日立鉱の構造を応用できる可能性があります。
感想
鉱石の中に含まれる微小な領域に注目して、分析したことが今回の新発見につながっています。どんな小さなことも見逃さない、そういう姿勢が研究に必要だなと思いました。また、日立鉱が新しい材料として応用可能ということで、まだまだ自然の中には人間の知らないことが隠されていると感じました。こんなに科学技術が進歩しているのに、まだ人間には作り出せないものが自然に眠っている。。。ロマンを感じますね。
付録
黄鉄鉱
鉄と硫黄からなり、化学組成はFeS2で表されます。結晶構造は等軸晶系で、NaCl構造と同類の結晶構造になります。図のようにNaClの塩素原子が硫黄分子に置き換わった構造をとります。
英語名は「Pyrite, パイライト」は、ギリシャ語の「火」を意味する「pyr」に由来しています。これは、黄鉄鉱をハンマーなどで叩くと火花を散らすことから名付けられました。[2]
黄鉄鉱は半導体性があり、鉱石検波器として鉱石ラジオなどに使用されたことがあります。現在では高性能な薄膜太陽電池の材料として利用しようと研究されています。
電子プローブマイクロアナライザー
電子プローブマイクロアナライザー (Electron Probe Micro Analyzer; EPMA) とは、真空中で細く絞られた電子線を固体試料表面に照射し、表面の組織及び形態の観察とミクロンオーダーの局所元素分析を行う分析です[3]。鉱物の組成分析だけでなく、半導体や高分子材料の分析などにも使用されています。
EPMAの原理について説明します。一定の加速電圧でサンプルに電子線を照射すると、入射電子はサンプルと相互作用し、さまざまな信号を発生させます。例えば、二次電子、反射電子、特性X 線、オージェ電子、吸収電流、カソードルミネセンスといった信号が発生します。これらの信号のうち、EPMA は特性X 線を計測することにより元素分析を行います。特性X 線のエネルギーは元素毎に固有の値であるため、これを計測することで元素分析を行うことができます。
参考文献
[1] T. Kuribayashi, et. al., “Hitachiite, Pb5Bi2Te2S6, a new mineral from the Hitachi mine, Ibaraki Prefecture, Japan”, Mineralogical Magazine, 1-27.
[2]黄鉄鉱(Wikipedia) URL: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%84%E9%89%84%E9%89%B1
[3]電子線マイクロアナライザー(EPMA)の原理と応用 URL: https://www.jaima.or.jp/jp/analytical/basic/xray/epma/