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血の池地獄は鉄の色 地獄の色と化学

先日、GOTOトラベルキャンペーンを使って大分県の別府と湯布院へ観光に行ってきました。
別府に一泊して温泉を楽しみ、次の日に湯布院を観光で一日散策して帰ってきました。
別府の温泉も気持ちよかったのですが、この記事では別府にある”地獄”を紹介したいと思います。

別府には7つの地獄と呼ばれる温泉があります。
「海地獄」、「鬼石坊主地獄」、「かまど地獄」、「白池地獄」、「鬼山地獄」、「血の池地獄」、「龍巻地獄」の7つです。

この7つの地獄は入浴することはできません。けれど、それぞれ特徴のある温泉なので、見るだけでも十分楽しむことができます。
今回はその中でも温泉に色がついている「海地獄」、「かまど地獄」、「白池地獄」、「血の池地獄」を紹介します。

血の池地獄

血の池地獄は写真のように真っ赤な色をした温泉です。
地獄めぐりツアーのバスガイドさんによると、池の底に沈殿している酸化鉄が原因で赤く見えるとのこと。
鉄にはII価とIII価のイオンの二種類があります。このうち、酸化物が赤くなるのはIII価のイオンであるため、血の池地獄の酸化鉄はFe2O3(酸化鉄(III))と分かります。
ちなみに、酸化鉄(III)は鉄の赤さびです。

血の池地獄が赤い理由は酸化鉄(III)でしたが、血が赤い理由は何でしょうか。
血が赤いのはヘモグロビンが原因です。ヘモグロビンにも鉄が含まれています。
しかし、血の池地獄と異なり、ヘモグロビンに含まれる鉄はII価のイオンです。

まったく同じ物質が原因で赤くなっているわけではないですが、どちらも鉄が関係しています。
そう思うと、血の池地獄という名前の付け方、上手だなと思いました。

海地獄

次は海地獄を紹介します。
こちらは血の池地獄とは対照的な青色の温泉です。
バスガイドさんによると、青色の原因は硫酸鉄が溶けだしているからとのことです。
ちなみに、硫酸鉄も硫酸鉄(II)と硫酸鉄(III)の二種類があり、青色になるのは硫酸鉄(II)です。

血の池地獄と同様、鉄が色を決めていて、しかもイオンの価数によって赤と青で全く違うのは面白いですね。

かまど地獄

続いて、かまど地獄を紹介します。
かまど地獄にも海地獄のような青色の温泉があります。
ということは、海地獄と同じく硫酸鉄(II)が原因かと考えました。
しかし、温泉の横に建てられた看板を見ると、違うことが分かりました。

温泉の中に含まれるシリカ(SiO2)がコロイドになっていて、そのコロイドによって光が散乱され、青く見えています。
温泉中のシリカは画像の反応式のように脱水縮合してポリマー、コロイドになります。
このコロイドによって光が散乱されます。散乱される光はコロイドのサイズによって変わります。
コロイドのサイズが光の波長と同じくらいの大きさになると散乱が起き始めます。
光の波長は青い光の波長が短く、赤い光の波長が長くなっています。
そのため、青い光のほうがより小さいサイズのコロイドで散乱されます。
コロイドのサイズによって散乱される光の波長が変わるので、温泉の色も変化します。

では、かまど地獄の温泉にはどのくらいのサイズのコロイドが含まれているのでしょうか。
かまど地獄の温泉には、青い光の波長と同じくらい、400nm(=0.04μm)のサイズのコロイドが含まれています。
そのため、青い光だけ散乱され、青色に見えています。
このときの光の散乱をレイリー散乱と呼びます。

ちなみに、先ほどの海地獄の硫酸鉄(II)は青色の補色である黄色の光を吸収するため、青色に見えています。
青い光を反射して青い色に見えているか、青の補色が吸収された結果青く見えるか、物質だけでなくメカニズムまで異なるのが面白いですね。

かまど地獄のガイドさんが面白い話をしていました。
この青色に見えている温泉ですが、雨が降ると緑色に変わって、そのあと晴れが2, 3日続くとまた青色に戻るとのことです。
おそらく、雨が降ってpHやシリカ濃度などが変化することで形成されるコロイドのサイズが大きくなるのでしょう。
温泉中にはシリカのほかにも様々な物質が溶けているので、どのような反応が起こっているのか複雑すぎて把握することはできません。

白池地獄

最後に紹介するのは、白池地獄です。
この温泉はその名の通り白色で、若干青みがかっています。
白色に見える理由はかまど地獄同様にシリカが原因です。
かまど地獄では、レイリー散乱が起きるぐらいのサイズ(400nm程度)でしたが、
白池地獄ではサイズがもっと大きく1μm程度になっています。
ここまで大きくなると水中にはとどまっていることができず、沈殿してしまいます。
白池地獄の縁をみてみると、シリカが付着しているのが分かります。

まとめ

別府の地獄を紹介しました。
それぞれの地獄に特色があって、とても面白かったです。
中でも、鉄イオンの価数、コロイドのサイズによる散乱する光の波長の違いで、色がこんなに変わるのか、と感動しました。

その他の地獄

残りの地獄についても写真で紹介します。

鬼石坊主地獄

泥の温泉で、ポコポコと波打っています。この丸い形が坊主の頭に似ていることからこの名前がつきました。

鬼山地獄

ここでは温泉の熱を使ってワニを飼育しています。ほかの地獄のように温泉が特徴あるというよりは、
ワニがいっぱいいて怖い、、、ということでしょうか。

龍巻地獄

龍巻地獄は間欠泉です。間欠泉としては小さめで、ほかの場所の間欠泉と比べると迫力にはややかけます。
しかし、小型であるため1時間に1回は必ず噴き出しているところが観られるので、手軽に楽しめるというメリットもあります。

かまど地獄おまけ

かまど地獄は鬼滅の刃の主人公の名前が竈門炭次郎(かまどたんじろう)ということで、鬼滅の刃の聖地として盛り上げようとしていました。
鬼滅の刃のグッズも置いてありました。子供が日本刀のおもちゃを買っていて、本当に人気なんだなぁと思いました。

参考ページ

別府温泉地球博物館 温泉の色
http://www.beppumuseum.jp/jiten/onsennoiro.html

放課後化学講義室 地獄(大分県)の化合物
http://chemieaula.blog.shinobi.jp/Entry/256/

高純度化学 公式ブログ
https://www.kojundo.blog/experiment/331/

 

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