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【日記】韓国が陰イオン交換素材の開発に成功と発表

GoranH / Pixabay

中央日報が、韓国化学研究院は、30日、科学素材研究本部のイ・ジャンヨン博士チームが次世代燃料電池である陰イオン交換膜燃料電池に使う陰イオン交換素材であるバインダーと分離膜の製造技術を開発し、韓国の中小企業SDBに移転したと明らかにした、と報じました[1]。商用化は今年末を目標にしている、とのことである。

これまで、この陰イオン交換素材は日本やドイツから輸入しており、今回これの国産化に成功したということで、大々的に発表したのだろう。ちょうど徴用工をめぐる問題で、韓国は日本による輸出管理の見直しを輸出規制だと騒ぎ立て、あらゆる分野で国産化を目指す、と大統領が発表しているから、この発表は韓国国内で非常に好意的に受け止められることだろう。

この陰イオン交換素材、国産化することでどのぐらいのメリットがあるのだろうか。固体高分子形燃料電池は陽イオンを用いた手法が主流になっている[2]。しかし、その方法では、触媒に白金という高価な金属を使うため、コスト削減が難しかった。一方で、陰イオンを用いた手法では、触媒がもっと安価な金属で済むため、低コスト化を図ることが出来る。しかし、陰イオンの手法では、性能は陽イオンの手法と同等の性能がでるが、耐久性が低いことが課題であった。

今回、韓国が開発したという陰イオン交換素材も耐久性の課題はまだ克服できていないようだ。陰イオン交換燃料電池は、燃料電池全体の10%程度で使用されているようである。燃料電池の世界全体の市場規模は4兆円(2030年度)まで成長すると言われている。その10%であるから、実に4000億円規模の市場になる[3]。現在の主な供給国である日本とドイツにどこまで戦えるのか、今後が注目である。

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固体高分子形燃料電池

今回ご紹介した記事で取り上げられていた材料は、固体高分子形燃料電池(PEFC)に用いられる材料のことを指していると思われる。そもそも燃料電池とは水素と酸素を反応させ、その時に出るエネルギーを利用して電気を取り出す電池である。燃料電池にもいくつかの方式があるが、PEFCは小型、低温動作が可能ということで、エネファームや水素自動車にも採用されるなど広がりを見せている。

陰イオン交換型のPEFCの図を示す[2]。

アニオンは陰イオンのことで、それぞれの電極の下には、その電極で起きる反応について書いてある。
この図の通り、電極の間に挟んだ陰イオン交換膜中をOHイオンが移動することで、電荷の移動、すなわち電流を取り出すことが出来る。この陰イオン交換膜が今回紹介した記事で話題になっていた材料である。

ちなみに、陽イオン交換式では、OHイオンの代わりにH+イオンが電極間を移動する。このとき、アノードではH2 → 2H+ + 2eという反応が、カソードではO2 + 4H+ + 4e → 2H2Oという反応が起きる。

参考文献

[1] 中央日報、”需要の半分を日本に依存する次世代燃料電池核心素材の国産化に成功=韓国”、2019/07/31、https://japanese.joins.com/article/108/256108.html

[2]三神 武文ら、”アニオン交換型燃料電池用電解質膜の研究開発”

[3] 燃料電池の市場規模 https://www.fuji-keizai.co.jp/market/19003.html

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