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貝の建築学 螺旋が作る自然の造形

東京大学総合博物館 小石川分館で開催されている貝の建築学を観に行ってきました。
展示の案内には、

このたび東京大学総合研究博物館小石川分館/建築ミュージアムでは、特別展示『貝の建築学』を開催いたします。貝はみずから貝殻を形成してその中で暮らしており、貝殻は貝の建築物とみなすことができます。本展では建築物としての観点から貝殻の形の統一性と多様性を示すことを目的としています。100種以上もの貝殻の内部構造を示す切断標本のほか、世界各地から収集された貝殻標本を前例のない規模で公開いたします。

貝の建築学 “ごあいさつ”より引用

とあります。貝の内側を見ることのできる機会なんてめったにあるものではないですし、この展示案内の写真を見たら自分の目で見たいとワクワクしませんか?

貝の建築学HPより[1]

というわけで、観に行ってきた感想と関連した本の紹介をします。

展示を見た感想

展示を観に行ってまず、目に入ってくるのが100種以上の貝の切断標本です。しかも、その展示の仕方が面白いです。

写真を見てわかる通り、巻貝の形に並んでいます。来場者は貝の内側に入っていくかのように回りながら、展示を見ていきます。

展示されていた貝の一部を紹介すると、イメージ通りの巻貝、アンモナイトのような貝や、縦型の巻貝があります。

イメージ通りの巻貝の断面図も十分美しく、徐々に貝が大きくなっていく様子が興味深いです。その一方で、これも巻貝なのと驚くような複雑な形をした断面をもった貝もあります。

でも、これもれっきとした巻貝なんだそうです。これらの写真は、展示標本資料から引用しました。HPでpdf版が公開されています。他にもたくさんの貝の写真がありますので、ぜひ一度眺めてみてください。

貝殻の構造を計算する

実は貝殻の構造は計算によってシミュレーションすることが出来ます。
HPからの引用ですが、

貝殻の成長は、「等角螺旋」と「付加成長」という2つのキーワードで説明される。等角螺旋とは螺旋の1種であり、螺旋の中心に対して一定の角度を保ちつつ殻が拡大する成長様式である。付加成長は一旦形成した部分の形や大きさを変更することなく、表面に殻成分を追加することで大きくなる成長様式である。これは屋根や壁を継ぎ足しながら建物を拡張する建築方式に相当する。

100種類以上もある貝殻の構造は、たった二つの現象で説明される、自然のすごさを感じます。シンプルな原理でありながら、生み出される構造の種類はそれこそ無限大にあるわけです。この無限の可能性が太古の昔から現代まで生物が生き続けられていることの理由なのでしょう。

等角螺旋は、ベルヌーイ螺旋とも呼ばれる螺旋で、極座標形式で次のようにあらわされます。

は定数になります。この2つの値の組み合わせによって出来上がる螺旋の形が変化します。

この等角螺旋に従って貝殻が成長していくとして、考えられたのがRaupのモデル[2]です。このモデルではら環(断面の円)の形は変化しないと仮定し、ら環の拡大率, 直径に対するへその大きさ(まき軸からの相対的距離), まき軸に対する移動率, 高さに対する幅の比率の4つをパラメータに貝殻の形状を記述するモデルです。

例えば、こちらのページで貝殻の構造のシミュレーションソフトが公開されています。ぜひ、色々な形の貝殻を計算してみてください。

螺旋が作る自然界の構造

貝殻のほかにも様々なところで螺旋が作る構造があります。動物の角や亀の甲羅などがそうです。

これに関連して、”波紋と螺旋とフィボナッチ”という本があります[3]。この本の第1章と第2章がちょうど螺旋による角や貝殻の構造形成の話になっています。先ほど紹介したシミュレータもこの本の作者、近藤先生のHPで公開されているものです。この本は生物学や数学に明るくない人が読んでもわかりやすいように、説明を丁寧にかみ砕いてくれているので、とても分かりやすい本です。

貝殻や角の話の他にも、シマウマや熱帯魚の縞模様がどのように形成されるのか、についても説明されていて、目からうろこの話がたくさんあります。ぜひ読んでみたらいかがでしょう。

“生物の形づくりの数理と物理”という本で貝殻の構造のより詳細な(数学、物理的な)説明がなされています[4]。

参考資料

[1] 貝の建築学 HP http://www.um.u-tokyo.ac.jp/architectonica/kai.html

[2] Raup(1952, 1966), Raup & Michelson (1965).

[3]近藤 滋 著、”波紋と螺旋とフィボナッチ” 角川ソフィア文庫(2019)

[4]本多 久夫 編、”生物の形づくりの数理と物理” 共立出版(2000)

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