青色LEDやパワーデバイス、高周波デバイスにGaNが使われている。半導体デバイスにおいて、デバイスを作るには基板の上に所望の構造の結晶を成長させる必要がある。研究用途では、MBEによるGaNの結晶成長が行われているが、工業製品では量産効率を考えて、MOCVDによる結晶成長が行われている。(一部、工業製品もMBEで作られていると思うが、一般的にMBEは量産には不向きである。)今回は、MOCVDでのGaN成長時の化学反応について紹介する。
GaNが生成される反応
MOCVDでGaNを成長するときに使われる原料は、TMGa(Tri Methyl Gallium)とアンモニア(NH3)である。この二つの材料を成長炉の中で反応させ、基板にGaNを成長する。また、アンモニアは水素(H2)をキャリアガスにして炉の中に運ばれる。
TMGaとNH3からどのような反応経路でGaNになるのかは色々と諸説あるが、ここでは2005年にJapanese Journal of Applied Physicsに投稿された論文、” Modeling of Reaction Pathways of GaN Growth by Metalorganic Vapor-Phase Epitaxy Using TMGa/NH3/H2 System: A Computational Fluid Dynamics Simulation Study”を参考に説明する。
この論文によると、GaNが基板に成長する主な反応経路は
TMGa + NH3 → TMGa:NH3
TMGa:NH3 → DMGaNH2 + CH4
DMGaNH2 → MMGaNH + CH4
MMGaNH → Ga-N + CH4
Ga-N分子が基板に付着するというものである。TMGa:NH3はTMGaとNH3の付加化合物である。このTMGa:NH3はNH3の非共有電子対を使って、TMGaと配位結合した化合物である。
DMはDi Methyl, MMはMono Methylの頭文字である。
それぞれの分子の画像は次のとおりである。順にTMGa:NH3, DMGaNH2, MMGaNH, Ga-Nである。図の青色の原子はN, 銅色はGa, 黒色はC, 白色はHである。
GaN成長時のエッチング
GaNの成長中にNH3のキャリアガスとしてH2を使っている。GaN成長後もH2を炉内に流しながら、降温していくとGaNの膜厚が設計値から目減りする。これはGaNがH2でエッチングされるのが原因である。2001年にJournal of Crystal Growthに投稿された論文、” GaN decomposition in H2 and N2 at MOVPE temperatures and pressures”によると、
GaNがGaとアンモニアに分解されるのが原因である。その時の反応は、
GaN + 3/2H2 → Ga + NH3
である。成長中の成長レートはH2によるエッチングを含んだレートになるので、H2によるエッチングは気にならないが、降温時にはエッチングされすぎないよう気を付けて成長条件を決める必要がある。
まとめ
MOCVD装置でGaNを結晶成長するときに炉内で起こっている反応についてまとめた。反応炉内を直接見ることができないので、どういう反応が起きているか想像するしかない。そういときに、シミュレーションというのは非常に役立つと感じる。