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化合物半導体ニュース週刊ダイジェスト|10/23号 窒化ガリウムは「貼り替え」の時代へ

デバイスは同じまま、GaNをサファイアからタングステンへ貼り替えただけで熱抵抗が3分の1になった。今週はそんな話からSi基板の改質まで、結晶そのものの改善に加えて「別の材料とどう組み合わせるか」のニュースが並んだ。結晶成長屋としては、これほど語りがいのある週はそうない。

この連載では、化合物半導体の1週間のニュースから3〜5本を選び、結晶成長屋の目線で「どのくらいすごいか」を読み解く。

1. サファイアを剥がしてタングステンへ。GaNダイオードの熱抵抗が3.1分の1に

何が発表されたか

英ブリストル大学と独フェルディナント・ブラウン研究所(FBH)が、サファイア上にMOCVDで育てたGaNのpnダイオードを、タングステン(W)基板へ転写した。レーザーリフトオフでサファイアを外し、銀とスズの液相拡散接合(TLP接合)でWに貼り付ける。転写プロセスにはEV Groupが協力した。ラマン温度計測の結果、素子の熱抵抗は転写前の3.1分の1に下がった。Wをカソードに使う完全縦型構造では、オン後の電流も伸びた。

技術者の見立て

結晶成長屋の目で見ると、この話の本質は「成長用の基板」と「使うときの基板」を切り離したことだ。サファイアは成長には安くて扱いやすいが、熱伝導率はおよそ40 W/mKで、GaN自身(130〜230 W/mK程度)の数分の1しかない。Wは約170 W/mKでGaNに近い。熱の出口を「サファイア並み」から「GaN並み」に広げたのだから、3倍は物性値から見て納得がいく数字だ。

面白いのは銅ではなくWを選んだ理由だ。銅の線膨張係数はGaNの3倍近くあり、数μmの薄いGaN膜を貼ると反りや割れ、剥離が起きやすい。WはGaNと膨張係数が近い。歪みで苦労したことがある人なら、この選択の意味はすぐ分かる。しかも熱でも負けていない。論文が比較に挙げた文献値では、GaN-on-Cuの熱抵抗が8.5 mK·cm²/Wで、今回のGaN-on-W(6.8 mK·cm²/W)の方が低い。

もう一つ面白いのは、残った熱抵抗の出どころだ。AgとSnの接合層は、実効的な熱伝導率が約62 W/mKしかない。GaN(約230 W/mK)やW(173 W/mK)と比べるとかなり低い。シミュレーション上のGaN-on-GaN(4.6 mK·cm²/W)より48%高い差の大きな要因は、この接合層とみられる。結晶はもう十分よく、次の改善余地は接合の方にある。

ただし、量産までの道は遠い。レーザーリフトオフのダメージ、接合界面のボイド、大口径での反りという、歩留まりを削る要因がそろっている。立ち上がり電圧が高いのも、p側コンタクトの最適化不足だと著者自身が認めている。それでも、高価なバルクGaN基板を使わずに「GaN-on-GaNに近い」熱特性を出せるなら、縦型GaNパワーデバイスのコスト論に新しい選択肢が増える。

図1 GaN-on-Wダイオードの作製工程。サファイア上に成長したGaNをキャリアに仮接合し、レーザーでサファイアを剥がしてから、Ag/SnでW基板に接合する(論文の記載をもとに筆者作成)

元記事:Thermal benefit of GaN-on-W power(Semiconductor Today、2026年10月22日)

元論文:Kachhawa et al., Appl. Phys. Lett. 129, 133507 (2026)(オープンアクセス)

2. WolfspeedとInfineon、SiC基板の長期供給を200mmへ。口径移行は「契約」の段階に入った

何が発表されたか

WolfspeedがInfineonと結んでいたSiC基板の長期供給契約を置き換え、供給するウェハを150mmから200mmへ移す新たな複数年契約を結んだ。金額と数量は非公開。Infineonは基板を複数社から調達する方針で、マレーシア・クリムの200mm SiC工場の立ち上げを進めている。用途としてはEVや太陽光に加え、AIデータセンターの電源を挙げている。

技術者の見立て

150mmから200mmへの移行で、ウェハ1枚の面積は約1.8倍になる。周辺の捨て領域の割合も減るので、取れるチップ数はそれ以上に増える。ただしこれは「同じ品質の基板が取れれば」の話だ。

SiCの昇華法成長は、Siの引き上げとはまるで別物だ。2,000℃を超える密閉るつぼの中で、外から見えないまま結晶を育てる。口径を広げると径方向の温度差が大きくなり、熱応力が基底面転位(BPD)や反りを増やす。種結晶を少しずつ大きくしていく口径拡大そのものにも年単位の時間がかかる。

だから、大手デバイスメーカーが200mmで「複数年、置き換え」の契約に踏み切ったことは、200mm基板の品質と供給量が量産ラインに乗せられる水準に来たというサインと読める。一方で「複数調達」を強調している点には、200mmの基板品質がまだメーカーごとにばらつくことへの備えも見える。契約の文面より、受入検査の仕様(転位密度や反りの上限)の方が本当は知りたい。

元記事:Infineon and Wolfspeed expand and extend long-term SiC wafer supply agreement to 200mm(Semiconductor Today、2026年10月16日)

3. Atomera×IQE、RF向けGaN-on-Siで共同開発。問われるのは性能より「安さ」

何が発表されたか

米Atomeraと英IQEが、RF用GaN-on-Siウェハの共同開発契約を結んだ。AtomeraのMST(Mears Silicon Technology)という薄い改質層をSi基板に入れ、その上にIQEがGaNをエピ成長する。狙いは量産RF市場向けの線形性と損失の改善で、試作を何度か回してファウンドリーやIDMへサンプルを出す。将来はパワー用途への展開も含みを持たせている。具体的な性能値やウェハ径は示されていない。

技術者の見立て

Si基板でRFをやる難しさは、まず反りにある。SiとGaNは熱膨張係数の差が大きく、GaN HEMTを成長すると大きく反ってしまう。反らないようにするには分厚いバッファ層が要り、そのぶん成長のコストがかかる。

RFでGaN-on-SiCが今も主流なのは、熱伝導率の差だ。Siは約150 W/mKで、SiC(約370〜490 W/mK)の半分以下しかない。ここはMSTを入れても変わらない。Siの上でRFをやるなら、転写の技術が必要になると見ている。

元記事はMSTの仕組みを明かしていないが、GaとSiが反応して界面が荒れる問題(共晶によるメルトバック)を抑える狙いではないかと見ている。だが、反りは対策できているのか。Si上ではAlGaNのバッファを挟まざるを得ないほど格子定数の差が大きく、転位もSiC上より多く残る点も気になる。

この共同開発の勝負どころは、性能そのものより価格だと思う。狙いはおそらく端末向けのRFデバイスで、安く作れるかどうかが問われる。

元記事:Atomera and IQE to jointly develop RF GaN-on-silicon(Compound Semiconductor、2026年10月22日)

4. 縦型GaN FinFETのVertical Semiconductorに最大7,300万ドル。AI電源が縦型GaNを引っ張り出す

何が発表されたか

MIT発のスタートアップVertical Semiconductorが、米商務省CHIPS研究開発局と、最大7,300万ドルの助成に向けた意向表明書を交わした。まだ正式決定ではない。同社は縦型GaN FinFETを開発しており、助成で米国内での量産を早める。目標は2.5MW級のAIラックで、電力損失を30%、占有面積を50%減らすという。同じ週にはInfineonとNVIDIAが800V直流給電向けのGaN電源での協業も発表している。

技術者の見立て

今のGaNパワーデバイスの主流は、Si基板上の横型HEMTだ。安いが、耐圧を上げるには電極間を広げるしかなく、650Vを超えるとチップが大きくなりやすい。縦型は電流を厚さ方向に流すので、耐圧はドリフト層の厚さで稼げる。その代わり、数μm~十数μmの低ドープ層を転位を抑えて成長する必要があり、従来は高価なバルクGaN基板が前提だった。

FinFET型は、フィンの幅でチャネルを閉じるので、p型ハードドープや再成長に頼らずにノーマリーオフを作りやすい。GaNのp型化と埋め込み再成長の難しさを知っている人ほど、この構造の理屈には納得するはずだ。一方で、基板と耐圧は今回も公表されていない。バルクGaNでいくのか、安い基板に移れるのか。そこが量産のコストを決める。第1話のGaN-on-Wのような「貼り替え」技術と、いずれどこかで交差すると見ている。

元記事:$73m CHIPS funding for Vertical Semiconductor(Compound Semiconductor、2026年10月22日)

5. AixtronのQ3受注は前年の2.2倍。MOCVD装置を動かしたのは「AIの光」

何が発表されたか

MOCVD装置大手の独Aixtronが2026年第3四半期の速報値を出した。受注は約2億7,500万ユーロで、前年同期(約1億2,400万ユーロ)の2倍を超えた。売上は約1億8,400万ユーロ、営業利益率は前年の13%から31%へ上がった。受注の伸びは、AIデータセンターの光通信用レーザー向け装置がけん引したという。通期見通しは据え置きで、確定値は10月29日に出る。

技術者の見立て

成長装置の受注は、半年~1年先のエピ生産量の先行指標になる。その中身がGaNパワーやSiCではなく、InPやGaAs系のレーザーだったというのが、今回の一番の情報だ。数年前は「SiCとGaNのパワーが装置需要を引っ張る」という説明が定番だった。その主役が入れ替わった。

レーザーのエピは、量子井戸の厚さや組成を原子層レベルでそろえる必要があり、ウェハ面内の均一性がそのまま歩留まりになる。装置の差が出やすく、単価も上がりやすい。利益率が13%から31%へ跳ねたのも、「製品構成が良かった」という説明と整合する。GaNパワー屋としては少し寂しいが、装置メーカーの体力がつくことは、次の世代のGaN用装置の開発費にも回る。

元記事:Aixtron’s Q3 orders and operating profitability exceed market expectations(Semiconductor Today、2026年10月19日)

今週のまとめ

結晶そのものを良くするだけでなく、別の材料と組み合わせ、統合する動きが目立った週だった。GaNをWに貼り替える、Si基板を改質してGaNを載せる、そして縦型GaNの量産にAI電源の資金が付く。その投資を動かしているのは、今やほぼAIデータセンターだ。


第1話のような「熱」の話が気になった方へ。GaNの格子の振る舞いを第一原理計算で追う同人誌「GaNデバイス開発への第一原理計算の活用」(量子茶房)のフォノン編を、技術書典で頒布中。 フォノン編(技術書典)

この連載について

毎週末、Semiconductor TodayとCompound Semiconductorから化合物半導体のニュースを選び、結晶成長屋の目線で読み解いている。書いているのは、ふだんは結晶を育てている半導体技術者だ。GaNやSiCの動きを追いたい方は、フォローしておくと毎週届く。

本記事は各社の発表と論文をもとにした技術的な解説で、「見立て」は筆者個人の見解です。特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。

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