300mmのシリコンに窒化ガリウムを載せると、成長温度から冷えるだけでウェハは反り、ときに割れる。 それでもInfineonは約11億ユーロを投じ、2027年末に300mm GaNの量産を始めるという。 今週は「口径」と「耐圧」で、各社がどこまで来たかを読む。
この連載では、化合物半導体の1週間のニュースから3〜5本を選び、結晶成長屋の目線で「どのくらいすごいか」を読み解く。
Infineon、300mmのGaNパワー半導体を「量産」で先に取りに来た
何が発表されたか
Infineonは、オーストリアのVillach拠点の既存クリーンルームを使い、300mmウェハでGaNパワー半導体を作る量産工場を立ち上げる。2034年までに約11億ユーロを投じ、2027年末までに生産を始める計画だ。オーストリア政府が欧州半導体法の枠で最大3億1,900万ユーロを支援する。同社は2年前に初の300mm GaNウェハを流しており、200mm比で1枚あたりのチップ数は2.3倍になるという。
技術者の見立て
300mmということは、基板はSiのはずだ。そうなると気になるのは反りだ。GaNの線膨張係数は約5.6×10⁻⁶/K、Siは約2.6×10⁻⁶/Kと約2倍違う。1,000℃前後の成長温度から室温に戻るだけで、GaN側には引っ張り応力がたまる。AlN核形成層とAlGaNの傾斜バッファで圧縮応力を仕込み、冷却時の引っ張りと相殺するのが定石だ。ところが、200mmと同じ反り(曲率半径)でも、径が大きいと基板の高さの最大と最小の差は大きくなる。その分、300mmでは反り制御のためのバッファ層をより厚くしなければならない。
反りをここまで気にするのは、Siラインと装置を共用するためだ。既存の300mm装置に流すには、反りを露光や搬送が受け付ける範囲に抑えなければならない。厚いSi基板で剛性を稼ぐか、バッファをさらに厚くして応力を作り込むか。バッファを厚くすれば、成長時間とコストが増え、クラックの危険も上がる。Infineonはこの兼ね合いを、まず中耐圧帯(100〜650V程度)で取りに行くのではないかと見ている。元記事は耐圧も生産能力も書いていない。ここが分かれば「どのくらいすごいか」はもう一段はっきりする。
元記事:Infineon establishing first high-volume fab for GaN power semiconductors on 300mm wafers in Europe(Semiconductor Today、2026年10月27日)/Infineon to establish Europe’s first volume 300mm GaN facility(Compound Semiconductor、2026年10月27日)
酸化ガリウムで「縦型・ノーマリーオフ・1A超」。p型なしでここまで来た
何が発表されたか
上海のGaChi Power Technologyが、縦型β-Ga₂O₃ MOSFETの最初の試作・評価を終えた。エンハンスメント(ノーマリーオフ)動作で、オン電流1.2A、しきい値電圧3.9V、特性オン抵抇33 mΩ·cm²、破壊電圧900V超、リーク3µA未満だという。750Vクラスを狙った設計で、チャネルの自己整合イオン注入と専用の終端構造が要だとしている。「1A超・900V超のE-mode縦型は世界初」というのが同社の主張だ。論文はまだ出ておらず、数字はすべて同社の発表値である。
技術者の見立て
Ga₂O₃の最大の弱点は、使えるp型がないことだ。SiCのMOSFETはpウェルを注入で作り、そこに反転チャネルを開く。Ga₂O₃ではそれができないので、NやMgの注入で電流阻止層を作り、その隙間を電子の通り道にする。自己整合注入にこだわったのは、この隙間の幅とドープのばらつきが、そのまましきい値とオン抵抗のばらつきになるからだろう。ノーマリーオフで3.9Vというしきい値は、パワー用途では実用圧と言ってよい。
ただし、オン抵抗にはまだ伸びしろが大きい。破壊電界8 MV/cm、移動度200 cm²/Vsという代表値でリフト領域の理論限界を概算すると、900V級で0.04 mΩ·cm²前後になる。33 mΩ·cm²はその約800倍だ。後述のSiC MOSFETは1200Vで数mΩ·cm²帯にいるので、量産SiCと比べてもまだ一桁以上重い。今はチャネルや接合部(JFET領域)の抵抗が支配していて、材料の実力はまだ出ていない段階だと見ている。
結晶成長屋としては、基板とエピが何かを知りたい。Ga₂O₃は融液成長(EFG法など)で基板が作れるのがSiCやGaNにない強みで、日本のNovel Crystal Technologyがこの分野を引っ張ってきた。縦型は基板ごと電流が流れるので、基板の欠陥と口径がそのまま歩留まりに効く。発表には口径も成長法もない。中国が基板まで自前で揃えているのかは、次の発表で確かめたい。
元記事:Chinese firm makes gallium oxide breakthrough(Compound Semiconductor、2026年10月28日)
一次情報:科技日報の記事(中国語、2026年9月29日)。元論文はない
900Vの双方向スイッチ。横型GaNが「SiCの縄張り」に足を掛けた
何が発表されたか
Infineonが、900VのGaNモノリシック双方向スイッチ(BDS)をEnphaseに供給する。1つのチップで、両方向の電圧を止め、両方向に電流を流せる素子だ。まずEnphaseの半導体変圧器(SST、AIデータセンター向け)に組み込み、産業用の三相太陽光インバータにも展開する。両社はすでに650VのBDSをマイクロインバータ「IQ9」で実用化している。オン抵抗やパッケージは公表されていない。
技術者の見立て
従来は、一方向しか止められないスイッチを2個、向き合わせに直列につないで使ってきた。これだとオン抵抗が2個分足されるので、同じ抵抗に揃えるには各素子を2倍にし、合計で約4倍の面積が要る。横型GaNのモノリシックBDSは、2つのゲートでドリフト領域を1つ共有できる。理屈の上では、同じオン抵抗を数分の1の面積で実現できる。縦型のSiCやSiでは裏面がドレインになるため、この構造は実現できない。横型ならではの構造だ。
結晶成長屋として気になるのは、900Vをどこで持たせているかだ。横型GaN-on-Siでは、表面の電極間だけでなく、エピを縦に貫く方向でも耐圧を取らなければならない。650V品のバッファは数µmだが、それを厚くすれば、反りとクラックの問題が1本目と同じ形で戻ってくる。バッファを厚くして稼いだのか、絶縁性基板で縦方向の耐圧を考えなくて済む構造にしたのか。そのどちらかだろうと見ているが、元記事は基板に触れていない。SiCの縄張りだった900V帯に、GaNが「双方向」という別の武器で入ってきたのは面白い。
元記事:Infineon supplying world’s first 900V GaN monolithic BDS devices to Enphase(Semiconductor Today、2026年10月26日)/Infineon and Enphase announce 900V GaN BDS devices(Compound Semiconductor、2026年10月26日)
WolfspeedとBorgWarnerの長期契約。本題は「200mmに完全移行」の一言
何が発表されたか
Wolfspeedは、BorgWarnerの次世代800Vインバータ向けに1200VのSiCデバイスを供給する複数年契約を結んだ。第5世代のSiC技術を使う。金額・数量・期間は非公表だ。発表の中でWolfspeedは、米国内の量産が200mmウェハに完全に移行したと述べている。
技術者の見立て
契約そのものより、200mmへの大口径化が実現できていることが重要だ。200mmは150mmの約1.78倍の面積がある。ただしSiCは昇華法(PVT)で2,000℃を超える温度で育てる結晶で、口径を広げると径方向の温度勾配が大きくなり、応力と基底面転位(BPD)が増えやすい。BPDはエピに伝わると、通電中に積層欠陥へ広がって特性を崩す(バイポーラ劣化)。車載の1200V品を長期で約束するには、200mmでこの欠陥を150mm並みに抑えた上で、歩留まりが安定している必要がある。
前号のInfineon向け200mm供給に続き、今度は車載Tier1との長期契約だ。顧客が200mm品を前提にした設計に入り始めた、と読める。それは200mmの結晶品質が「試してみる」段階を越えたということだと見ている。
元記事:Wolfspeed agrees multi-year deal to supply 1200V silicon carbide devices to BorgWarner(Semiconductor Today、2026年10月29日)/Wolfspeed and BorgWarner sign multiyear SiC agreement(Compound Semiconductor、2026年10月29日)
SemiQの第4世代SiC MOSFET。チップは同じ大きさで抵抗2割減
何が発表されたか
SemiQが第4世代の1200Vと750VのSiC MOSFETを出す。セルピッチを36%詰め、JFET領域とpウェルの注入を見直して、特性オン抵抗を前世代比23%下げた。1200V品は5mm角のチップのまま、オン抵抗が14 mΩから11 mΩに下がった。データシートでは、800V・50A・25℃でのスイッチング損失の合計も、1,387 µJから1,133 µJへ約18%減っている。ゲート酸化膜はウェハ状態で定格を超える電圧をかけてスクリーニングしている。11月のelectronica 2026で披露する。
技術者の見立て
11 mΩ×25 mm²で、チップ面積あたり約2.8 mΩ·cm²だ。周辺の終端部も含んだ値なので、活性領域だけならもう少し低い。2本目のGa₂O₃(33 mΩ·cm²)と比べると、量産SiCが今どこにいるかがよく分かる。
ピッチを詰めると、隣り合うpウェルに挟まれたJFET領域が狭くなり、そこの抵抗が上がる。そこでJFET領域に追加の注入を入れて濃度を上げるのが定石だ。SiCは拡散がほぼ効かないので、注入の置き方がそのまま最終のプロファイルになる。注入後の1,600℃級の活性化アニールで表面を荒らさずに静定できるかが、ピッチ縮小の限界を決めているのではないかと見ている。自社で150mmのSiCエピも売る会社なので、エピとプロセスを一緒に詰められるのは強みだ。
元記事:SemiQ makes available Gen4 1200V and 750V SiC MOSFETs(Semiconductor Today、2026年10月27日)/SemiQ launches Gen4 1200V and 750V SiC MOSFETs(Compound Semiconductor、2026年10月27日)
元資料:GP4T011A120Hデータシート(Gen4、1200V)/GP3T014A120Hデータシート(Gen3、1200V)(SemiQ)
今週のまとめ
GaNは300mmへ、SiCは200mmへと、口径の移行が計画から契約と工場の段階に入った。その一方で、Ga₂O₃はオン抵抗でSiCにまだ一桁以上の差があり、材料の実力を出し切るのはこれからだ。どの話も、最後は反りと欠陥を大口径でどう抑えるかに行き着く。
注入で入る欠陥や、結晶中の点欠陥が特性にどう効くかを第一原理計算で追うなら、同人誌「GaNデバイス開発への第一原理計算の活用」(量子茶房)の点欠陥編で手を動かしながら学べる。
この連載について
毎週末、Semiconductor TodayとCompound Semiconductorから化合物半導体のニュースを選び、結晶成長屋の目線で読み解いている。GaNやSiCの動きを追いたい方は、フォローしておくと毎週届く。
本記事は各社の発表と論文をもとにした技術的な解説で、「見立て」は筆者個人の見解です。特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。
#化合物半導体 #パワー半導体 #GaN #窒化ガリウム #SiC #炭化ケイ素 #酸化ガリウム #半導体ニュース #結晶成長 #Infineon #インフィニオン #Enphase #Wolfspeed #BorgWarner #SemiQ

