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high-kゲート絶縁膜のためのナノスケールシミュレーション

— SiO₂界面からHfO₂・ZrO₂高k材料までの分子動力学的解析 —

導入

CMOSデバイスの微細化に伴い、SiO₂ゲート絶縁膜の厚さは2 nm以下という原子スケールに達している。この領域では、界面原子の構造や局所的な欠陥がデバイス特性・信頼性に直接影響する。従来のSiO₂では量子トンネル電流の増大が問題となるため、高誘電率(high-k)金属酸化物であるHfO₂やZrO₂が次世代ゲート絶縁膜として注目されている。

しかし、high-k膜でも厚さは数nm程度であり、界面構造・欠陥・不純物の原子レベル制御が依然として重要である。本論文(Kaneta et al., FUJITSU Sci. Tech. J., 39, 106–118, 2003)では、これらの課題に対して以下の二つのアプローチを用いている。

  1. 第一原理分子動力学(First-principles MD)によるSi(100)/SiO₂界面の電子構造解析
  2. 古典分子動力学(Classical MD)による高k材料(HfO₂, ZrO₂)の結晶化・相分離挙動の解析

第一原理分子動力学によるSi(100)/SiO₂界面の解析

計算手法

本研究では、Car–Parrinello法に基づく第一原理分子動力学を用い、密度汎関数理論(DFT)による電子構造計算を行った。

単位セルは35〜106原子を含み、Si基板7層と酸化膜層を含む構造を構築している。


Si(100)/SiO₂界面モデルの安定性

三種類のSiO₂構造(Quartz, Tridymite, pseudo β-cristobalite)を比較した結果、

この構造変化は酸化膜成長時における内部応力緩和の重要な要因となることが示された。


バンド構造の変化

界面垂直方向のバンドギャップ変化を解析したところ、SiO₂側へ約0.1〜0.4 nmの範囲でバンドギャップが急増することが分かった。
界面近傍のSiO₂は依然として半導体的特性を持ち、電子障壁高さの定義が観測法に依存する可能性があることを示した。これはMüllerらによる原子スケール観測(Nature, 1999)とも整合する。


ダングリングボンド欠陥(SDB)と界面準位

Si/SiO₂界面におけるSiダングリングボンド(SDB)は、Pb中心欠陥(Pb₀, Pb₁)として知られる。
本研究では二種類のモデルを比較した:

密度状態(DOS)の計算により、SDB₀ではバンドギャップ中に二つの局在欠陥準位が出現し、実験で観測されるCV特性・EPR信号と一致した。一方、SDB₁では準位がバンド端に近く、影響は小さい。
さらに、H終端によりこれらの欠陥準位が完全に消失することを確認し、界面パッシベーションの有効性を明確に示した。


水素脱離メカニズム

Si-H結合の解離エネルギーを詳細に計算した結果、以下の知見が得られた:


窒素の界面偏析とトラップ生成

NOまたはN₂O雰囲気での熱窒化により導入されるN原子の局在構造を解析。
主要な配位構造として以下を比較:

結果として、


古典分子動力学による高kゲート絶縁膜のアニーリング解析

計算モデル

解析対象は以下の四種の混合酸化物:

単位セル(約4000原子)は3.4×3.4×5.1 nm³で、結晶層とアモルファス層を接合。
1000°C、1 atmの条件でアニーリングを実施。
ポテンシャル関数はMatsuiのペアポテンシャルおよびKanetaらの改良パラメータを採用。


結晶化および相分離挙動

Hf–Al系

Hf–Si系

Zr系

これらの結果から、SiまたはAlを少量添加することで熱安定性を制御できることが明らかとなった。


結論

本研究は、第一原理MD古典MDを組み合わせることで、原子レベルでの界面電子構造から結晶化ダイナミクスまでを統一的に解析した。

手法対象主な解析内容主な成果
第一原理MDSi(100)/SiO₂界面電子構造・欠陥・H/N挙動バンドギャップ変化、SDB準位、Hパッシベーション、N偏析機構
古典MDHfO₂, ZrO₂系高k膜結晶化・相分離挙動組成依存の熱安定性・相分離閾値の定量化

本研究で得られた知見は、高信頼性・高性能なゲート絶縁膜設計における理論的基盤を提供しており、今後の原子スケールプロセス制御に向けた有力な指針となる。


参考文献


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