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【半導体物理】Poole-Frenkel伝導

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絶縁膜は電子デバイスの保護膜などに利用されています。絶縁膜はその名前から電気を流さない膜とされていますが、現実には電流が全く流れないわけではありません。ここでは、絶縁膜の伝導モデルについて紹介します。

Poole-Frenkel伝導

絶縁膜の電気伝導現象の一つに、Poole-Frenkel伝導があります。この現象は発見したYakov FrenkelとH. H. Pooleの名前から付けられています。Frenkelによる報告は1938年にされています。[1]
続いて、Poole-Frenkel伝導のモデルについて説明します。

絶縁膜中の電子伝導

絶縁膜中で電子が移動するメカニズムは次のようになります。絶縁膜中の電子は局在している準位に捕獲されています。この局在準位は絶縁膜中の欠陥や不純物が原因と考えられています。この捕獲されている電子が、熱ゆらぎによって局在準位から伝導帯にはじき出されると絶縁膜中を移動することができるようになります。ただし、移動できるのは絶縁膜中の別の局在準位に捕獲されるまでのわずかな時間です。
通常、捕獲された電子が伝導帯にはじき出されるためには非常に大きな熱エネルギーが必要になります。室温の熱エネルギーは約25meVであり、300℃近くに上げても約0.3eVです。絶縁膜のバンドギャップが5eV近いことを考えると、非常に浅い準位の電子しか飛び出さないことがわかります。
Poole-Frenkel効果は、絶縁膜に電界をかけた時には、非常に大きな熱エネルギーが無くても、捕獲された電子が準位から飛び出す現象です。電界をかけたときの電子伝導のモデルを説明します。

Poole-Frenkelモデル

Poole-Frenkel伝導のモデルを次の図を使って説明します。

左は絶縁膜に電界をかけていない状態を示しています。この時、図中黒丸で示した電子は、伝導帯からの深さにある準位に捕獲されています。この状態で、電子が伝導帯に飛び出すためには、のエネルギーをもつ必要があります。
ところが、絶縁膜に電界がかかると、右のように伝導帯が傾きます。すると、捕獲された電子が伝導帯に飛び出すために必要になるエネルギーは、になります。

Poole-Frenkel伝導の式

Poole-Frenkel伝導のモデルについて説明しました。ここでは、Poole-Frenkel伝導で流れる電流がどのような式で表されるか示します。
まず、電界によって下がる電子が伝導帯に移るために必要なエネルギーは下がりますが、その値は、

と表されます。ここで、は電気素量、は絶縁膜の誘電率(比誘電率ではない!)、は絶縁膜にかかる電界を表します。したがって、絶縁膜に電界がかかっているときに伝導帯に電子が飛び出す確率は、

と表されます。伝導帯に飛び出した電子は電界によって加速されて電流として流れるため、Poole-Frenkel伝導によって流れる電流は、

と表されます。

まとめ

絶縁膜中を電子が移動するモデルの一つであるPoole-Frenkel伝導について紹介しました。Poole-Frenkel伝導の特徴は絶縁膜に電界をかけたときに、トラップされた電子が伝導帯に放出されやすくなることを示していることです。Poole-Frenkel以外にも絶縁膜中を電子が移動するモデルがあり、そちらについても紹介します。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献

[1]J. Frenkel, “On Pre-Breakdown Phenomena in Insulators and Electronic Semi-Conductors“, Phys. Rev. 54, 647
※Yakov Frenkelはアメリカの科学雑誌に投稿する際にはJ. Frenkelと名乗っていた。[2]
[2]Yakov Frenkel (Wikipediaのページ) https://en.wikipedia.org/wiki/Yakov_Frenkel

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