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SiNx膜の秘密を解く:原子比が左右する光と電気のふるまい

導入

スマートフォンや電気自動車、太陽電池――。これらのデバイスを支えるのは、わずか数マイクロメートルの薄膜材料です。その中でも**シリコンナイトライド(SiNx)**は、絶縁性と機械的な強さ、そして光学特性のバランスが優れた重要な素材として知られています。

今回紹介するのは、フランス・トゥールーズ大学とアイルランドのアナログ・デバイセズ社による最新研究です。彼らは、プラズマCVD(PECVD)法で作製したSiNx膜の**組成(シリコンと窒素の比率)**を変えることで、膜の構造・光学・電気的特性がどのように変わるかを詳細に調べました。

わずかな原子比の違いが、膜の屈折率誘電率だけでなく、高電圧下での電気伝導特性までも劇的に変えることが明らかになったのです。


研究概要

研究チームは、窒素リッチ(N-rich)からシリコンリッチ(Si-rich)まで、さまざまな組成のSiNx膜をPECVD法で成膜しました。膜厚は約1µmで、すべてシリコン基板上に形成されています。

各膜の構造と化学結合を調べるために、XPS(光電子分光)FTIR(赤外吸収)SIMS(二次イオン質量分析)などが用いられました。さらに、高電圧ブロードバンド誘電分光法(HVBDS)により、絶縁膜としての性能が評価されました。

光学特性:屈折率と組成の関係

シリコン含有量が多いほど、屈折率は高くなりました。

これは、シリコン原子が多いと電子が光に強く応答するため、光学的に「重い」材料になるためです。

化学結合と水素の役割

FTIR分析では、Si–H結合とN–H結合の量が組成に応じて変化しました。

さらにSIMS測定で、どの膜にも水素が含まれることが確認されました。
特にNリッチ側では水素量が増え、**水素化(Hydrogenation)**が構造安定化に寄与していることが示されました。

電気特性:高電圧下での非線形伝導

本研究の核心は、電場をかけたときの電気伝導の変化です。
シリコンの比率が高い膜では、弱いSi–H結合が電場によって切断され、Siのダングリングボンド(未結合手)が発生します。これが電子を捕まえたり放したりするトラップ状態を作り、結果として伝導性が高まるのです(図4)。

この違いは、電気絶縁材料としての最適化に直結します。高電圧用のデバイスでは、Nリッチ膜の方が望ましい特性を示しました。


研究の意義

この研究は、半導体製造で広く使われているPECVDシリコンナイトライド組成設計指針を与える重要な成果です。

さらに、FTIRやHVBDSなど複数の分析手法を組み合わせて、原子スケールの結合状態とマクロな電気特性を結びつけた点が特筆されます。
この研究成果は、今後の絶縁膜の信頼性向上にも貢献するでしょう。


参考情報


#シリコンナイトライド #PECVD #絶縁膜 #半導体材料 #光学特性 #電気特性 #材料科学

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