はじめに
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高分解能TEM(HRTEM)では結晶格子像から転位を観察できるが、らせん転位(screw dislocation) のようにコントラストが弱い欠陥は見えにくい。
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紹介する論文では、回折消滅(diffraction extinction) を利用して、格子像を再構成し、転位を鮮明に可視化する手法を提案している。
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手法名:HRLIRDE (High-Resolution Lattice Image Reconstruction and Dislocation Analysis based on Diffraction Extinction)
- 論文:“The Construction of a Lattice Image and Dislocation Analysis in High-Resolution Characterizations Based on Diffraction Extinctions” (Materials, 2024)
手法の流れ
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HRTEM像のFFT
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逆格子像を取得。
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消滅スポット(extinction spot)の同定
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理論的に存在するはずの反射が消えている位置を特定。
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拡散波関数の構築
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消滅スポットに対応する回折波を仮定。
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像再構成 (IFFT)
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透過波と消滅スポット由来の仮想回折波を干渉させ、格子像を再構成。
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転位解析
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再構成像中の縞の途切れ・位相ずれを解析し、転位位置とバーガースベクトルを決定。
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引用図解説
図1:透過波と回折波の模式図
出典: Materials (2024)
→ 透過波と回折波の干渉により像が形成される。消滅波の概念を模式的に示す。
図2:FFTパターンと消滅スポット
出典: Materials (2024)
→ 消滅すべきスポットが観察されない領域をマーキング。これを基に再構成する。
図3:再構成像と転位の可視化
(論文内 図7–15 参照)
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消滅スポットから再構成した格子像では、縞の途切れ・位相の飛びとして転位コアが現れる。
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らせん転位では縞がらせん状に歪み、バーガース回路を描くことで ベクトルを決定可能。
特徴と応用
メリット
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らせん転位や複雑な転位ネットワークを可視化可能。
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装置変更なし、画像処理ベースで導入できる。
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格子像解析の感度を向上。
注意点
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結晶構造依存性があり(本論文ではFCCで定式化)。
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消滅スポットの同定はノイズの影響を受けやすい。
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再構成像は仮想的な要素を含むため、解釈には注意が必要。
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