炎色反応:花火を見ながら思うこと(3)

花火を見ながら炎色反応のことを考えていた。炎色反応を理解するために必要な電子殻、電子軌道についてはこれまでに簡単にまとめてきた。では、高校で習う炎色反応を起こす原子はどの電子軌道間を遷移しているのだろうか。量子力学の基礎を習ったときもそこまでは授業で出てこなかった。各原子の電子軌道のエネルギーを計算してもいいのだが、計算が難しく大変である。そこで、公開されている原子のデータベースを調べ、そこからどの軌道間の遷移なのかまとめてみた。

炎色反応を起こす代表的な原子
高校で習う代表的な原子について、どの電子軌道間の遷移なのか調べてみる。まず、調べるのはSr, Li, Ca, Na, Ba, Cu, Kの7つの原子。それぞれイオン化していると仮定する。各原子の電子軌道のエネルギーはこのサイトで調べる。https://www.nist.gov/pml/atomic-spectra-database
高校で習う色はどの軌道からの遷移なのか確認してみよう。

赤色:Sr
まずは、赤色のSrから確認しよう。Srが原子化しているとすると、基底状態は、5s軌道がすべて埋まった状態である。先ほどのwebサイトでSrの準位を調べると、基底状態の次に高いエネルギー準位は4d軌道で、エネルギーは1.80eVである。このエネルギーは光の波長に直すと、687nmで赤色である。700nmぐらいが人間の目で識別できる限界であるので、かなり濃い赤色、深紅であることがわかる。
また、次の5p軌道は2.94eVで、波長は421nm、紫色の光である。Srの発光には紫色の光も含まれていることもわかる。

赤色:Li
同じく赤色のLiを確認しよう。Liが原子化しているとすると、基底状態は2s軌道に一つの電子が存在している状態である。基底状態の次に高いエネルギー準位は2p軌道で、エネルギーは1.85eVである。光の波長は671nmで赤色である。先ほどのSrと比較すると波長が短く、より明るい赤色になっている。次にエネルギー準位が高いのは3s軌道でエネルギーは3,37eVで368nmである。これは紫外領域に入っており、人間の目で確認できるのは赤色だけである。

橙赤色:Ca
Caを確認してみよう。Caが原子化していると考えると、基底状態は4s軌道までがすべて埋まった状態である。基底状態の次に高いエネルギー準位は3d軌道で、1.69eV、734nmである。これは赤外光である。次にエネルギーの高い準位は4p軌道で397nmであり、これは紫外光である。ところが、Caの炎色反応は橙赤色である。さて、どういうことだろうか?エネルギー準位のデータが間違っているのか?それはほかの原子のデータが実際の実験値とよく合っていることから考えにくい。すると、Caの炎色反応はCa原子ではなく、何か化合物イオンが引き起こしていると考えられる。もう少し調べてみたい。

黄色:Na
Naはどうだろうか。Naが原子化していると考えると、基底状態は3s軌道に一つの電子が存在している状態である。基底状態の次に高いエネルギー準位は3p軌道で、2.10eV, 590nmである。これは黄色の光である。実際、Naの炎色反応も黄色である。

緑青色:Ba
Baについても確認してみる。Baが原子化していると考えると、基底状態は6s軌道まで電子が埋まっている状態である。基底状態の次に高いエネルギー準位は5d軌道で0.60eV, 2066nmで赤外である。次にエネルギー準位が高い軌道は6p軌道で、2.51eV, 494nmであり、緑青色である。

青色:Cu
Cuはどうだろうか。Cuが原子化していると考えると、基底状態は3d軌道まで電子が埋まっている状態である。3d軌道の次に高いエネルギー準位は4s軌道で、2.72eV, 456nmである。これは青色に対応する。

紫色:K
最後にKについて調べてみる。Kが原子化していると考えると、基底状態は4s軌道に電子が一つ入っている状態である。次にエネルギー準位が高いのは4p軌道で1.61eV, 770nmでこれは赤外光である。実際に観察される炎色反応が紫色であることから、エネルギー準位のリストを見て相当する軌道を探すと、5p軌道の3.06 eV, 405nmが見つかる。おそらく5p軌道まで電子が励起され、発光していると考えられる。

まとめ
Ca以外の原子については、どの電子軌道からの遷移なのかエネルギー準位のリストを調べて、照らし合わせることで確認することができた。これをきっかけに量子力学や量子化学に興味をもってもらえたらと思う。

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はじめまして!”あおやぎ”と言います。
メーカーで研究開発の仕事をしています。このブログでは、私の専門分野である半導体やそれに関連する内容を紹介していきます。
半導体関連の知識をまとめたデータベースのようにしたいなと思っています。

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