フェルミレベルピニングという現象が半導体ではよく知られています。これは半導体に接触する金属の種類を変えてもショットキー障壁高さが変化せず、あたかもフェルミ準位がエネルギーバンド内のある位置に固定されている(pinnig)とみなせる現象のことを言います。フェルミレベルピニングの起源としては、半導体表面のダングリングボンドや表面再構成による界面順位が考えられています。
GaNのフェルミレベルピニングについて報告している論文を調査しましたので、紹介します。
タイトル:Origins of Fermi-level pinning on GaN and InN polar and nonpolar surfaces
著者:D. Segev and C. G. Van de Walle
掲載ジャーナル:Europhys. Lett., 76(2), pp. 305-311 (2006)
第一原理計算によってGaNおよびInNの表面再構成を計算し、フェルミレベルがピニングされる位置を算出している論文になります。
計算しているのは、GaN, InNの+c(0001), -c(000-1)面, m(1-100), a(11-20)面の4つの面になります。
第一原理計算の詳細やGaNの表面再構成の状態などの詳細はここでは割愛して、フェルミレベルがどの位置にピニングされるのかだけ、紹介します。
GaN | InN | |
+c (0001)面 | Ec – 0.5~0.7 eV | Ec + 0.6 eV |
-c (000-1)面 | Ev + 1.2 eV | Ec + 0.3 eV |
m (1-100)面 | Ec – 0.7 eV | Ec + 0.6 eV |
a (11-20)面 | Ec – 0.5 eV | Ec + 0.6 eV |
まず注目するのは、GaNは+c面、m面、a面ではn-GaNのように伝導帯に近い位置にフェルミレベルがピニングされるのに対して、-c面では価電子帯側にピニングされることです。この計算ではGaが表面で表面再構成を形成しているとして、計算を行っています。+c面では表面のGaの下に3つのGa原子が来るのに対して、-c面では3つのN原子の上にGa原子が表面再構成します。そのため、表面のGa原子の準位が変わります。
次に注目するのは、InNではすべての面でフェルミレベルが伝導帯より高い位置にピニングされることです。バルクのInNでは表面に電子が蓄積されることが知られており[1, 2]、フェルミレベルが伝導帯より高い位置にピニングされるため、表面に電子が蓄積しているとこの計算結果から推測できます。
まとめると、
・GaNのフェルミレベルは、Ec – 0.5 ~ 0.7 eV(+c, m, a面)、Ev + 1.2 eV(-c面)にピニングされる。
・InNのフェルミレベルは、Ec + 0.6 eV(+c, m, a面)、Ec + 0.3 eV(-c面)にピニングされる。
となります。
参考文献
[1] Lu H., Schaff W. J., Eastman L. F. and Stutz C. E., Appl. Phys. Lett., 82 (2003) 1736.
[2] Mahboob I., Veal T. D. and McConville C. F., Phys. Rev. Lett., 92 (2004) 036804.
最近のコメント