半導体において、キャリアである電子(もしくは正孔)の移動度測定は重要な物性です。
特に電子デバイスにおいてはそれが電流-電圧特性を左右しますので、実際の移動度がどのくらいなのか評価する必要があります。
キャリアの移動度を評価する方法としては、ホール測定が広く用いられています。
ここでは、ホール測定の原理について説明します。
ホール効果とは
図のように方向に電流を流し、方向に磁場をかけます。すると、電荷にはローレンツ力がかかり、次のようにあらわされます。
電流が流れているときは電荷が平均して方向に一定の速度で移動していると考えられるので、平均速度をとすると、ローレンツ力は方向に平均され、
と表されます。
電荷はローレンツ力によって加速されます。すると、電荷は面AまたはBに移動し、方向に電場 が発生します。この電場 をHall電場といいます。電荷の移動はやがて平衡状態になり、平衡状態ではは次のようにあらわされます。
電荷が一種類の場合、方向に流れる電流は次のようにあらわされます。
式から電子の速度を消すと、
となります。すなわち、サンプルに印加した磁場と電流、ホール効果によって生じた電場を測定することによって、電荷の種類と密度を算出することができます。
次にホール効果を使って移動度を測定する方法について説明します。
ホール測定
ホール測定はホール効果によって多数キャリア濃度を求め、試料のシート抵抗から移動度を算出するします。
先ほどの図でx方向に電流を流しながら、z方向に磁場をかけ、y方向に生じるホール電圧を測定します。
多数キャリア濃度をとすると、ホール電圧は、次のようにあらわされます。
ここで、をホール係数、を散乱因子と呼びます。キャリアは半導体中を移動するとき、様々な要因で散乱されます。散乱因子はそれらのキャリア散乱を考慮するための係数で、多数キャリア濃度を精度良く見積もる場合は正しい値を入力する必要があります。ですが、通常は散乱因子を1と仮定して報告されます。正確にキャリア散乱について解析したい場合は測定温度依存性を評価する必要があります。
上の式より、多数キャリア濃度が次のように表されます。
シート抵抗と抵抗率は次のようにあらわされます。
シートキャリア密度とすると、
とあらわされます。
シート抵抗の測定は4端子法で測定するのですが、試料の電気伝導に異方性があるかどうかで試料の形状を変える必要があります。
電気伝導に異方性がない場合
異方性がない場合、van der Pauw法で測定します。試料の形状は下図のとおりです。
van der Pauw法の試料形状
シート抵抗を測定する場合は、電極AB間に電流を流し、電極DC間の電圧を測定し、
を求めます。同様にも求めます。シート抵抗は次のように求められます。
は解析的には解けないので、プログラムを使って計算させて求めます。
ホール電圧は電極Aから電極Cに電流を流し、上から下へ磁場を印可したときに電極DB間に発生する電圧を測定します。が, がに相当するので、シートキャリア密度を求めることができ、移動度を算出することができます。
電気伝導に異方性がある場合
電気伝導に異方性がある場合は、ホールバーと呼ばれる形状の試料を用意して測定を行います。
ホールバーの形状[1]
電極Aと電極B間に電流を流し、電極Cと電極D間の電圧を測定して抵抗率を評価します。
次に電極Aと電極B間に電流を流し、上から下へ磁場を印可したときに電極DE間に発生する電圧を測定します。
電流を流す向きを変えた試料を用意し、移動度の異方性を調べます。
まとめ
半導体の移動度評価に使われるホール測定の原理を説明しました。
電気伝導に異方性がない場合は、van der Pauw法で、異方性がある場合はホールバーを使って測定を行います。
移動度の温度依存性を評価することでキャリアの散乱機構を評価することができます。散乱機構については別のページで説明したいと思います。
参考
[1] キャリヤ濃度・移動度測定のコツ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/85/7/85_601/_article/-char/ja
[2] Van der Pauw法による電気抵抗率の測定
http://www.eng.niigata-u.ac.jp/~nomoto/19.html
[3] ホール効果-Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%8A%B9%E6%9E%9C
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